この前、歌舞伎を見に行きました。
演目は「芝浜革財布」。
実は私は、落語の「芝浜」は以前から知っ
ていました。
前に映画『億男』を見たとき、
その物語が落語の「芝浜」をモチーフにしていると知って、
印象に残っていたからです。
ただ、
歌舞伎で「芝浜」を見るのは、今回が初めてでした。
同じ物語でも、
落語とも、映画とも違う空気があって。
それがとても新鮮でした。
見終わったあと。
胸の奥に、じんわり残るものがあって。
派手な感動というより、
静かに心がほどけていくような感覚でした。
お金の話だと思っていたけれど、違った
芝浜革財布は、
酒にだらしない男と、それを見守る女房の話です。
ある日、男は浜辺で革財布を拾います。
中には、見たこともないほどの大金。
けれどその出来事は、
夢だったのか、現実だったのか。
気づけば男は、また酒に溺れていきます。
ここから物語は、
「お金を拾った話」ではなくなっていきました。
信じるという、静かな選択
私が一番心を掴まれたのは、
女房の在り方でした。
責めない。
怒鳴らない。
正そうともしない。
ただ、
信じるという選択をする。
人を変えようとしないのに、
結果的に人が変わっていく。
それって、ものすごく難しくて、
ものすごく深い優しさだな、と感じました。
それでも残った、正直な気持ち
芝浜を見終わって、
心が温かくなった一方で、
正直な気持ちも、少しだけ残りました。
「やっぱり、人は
まじめに、コツコツ働かないといけないのかな」
そんな、
ちょっと残念なような、
少し肩に力が戻るような感覚です。
物語の中で描かれる“改心”は、
結局のところ、
酒をやめて、働く男になる、という姿でした。
お酒の向こうにあったもの
でも同時に、
別のことも強く感じました。
毎日お酒を飲む生活は、
きっと身体を壊してしまう。
それだけじゃなくて、
心が満たされていないからこそ、
お酒に逃げてしまうのだろうと。
そう思ったとき、
「働くようになって良かった」というよりも、
“自分の人生に戻れた”ことが、良かったんだと感じたのです。
人生を立て直すということ
芝浜は、
努力を美化する話ではなくて、
「逃げるしかなかった人が、
もう一度、自分の足で立つ話」だったのかもしれません。
落語で知っていた物語を、
歌舞伎という形で見たことで、
その「再生」の部分が、より静かに、深く心に残りました。
芝浜革財布は、
奇跡の話ではありません。
でも、
人が人生を立て直す過程を、
とても人間らしく描いた物語でした。
派手じゃない。
でも、確かに希望がある。
見終わったあと、
私は少しだけ、
「これからの人生も悪くないかもしれない」
そんな気持ちになっていました。

